医療法人平成博愛会世田谷記念病院 在宅医療を広めるために、「夜間休日支援」は今後なくてはならないサービス
【医療機関名】医療法人平成博愛会世田谷記念病院
【所在地】〒158-0092 東京都世田谷区野毛2丁目30-10
【代表者】院長 清水英治
【ホームページ】https://setagayahp.jp/
2012年に世田谷野毛に開設された医療法人平成博愛会 世田谷記念病院。
急性期病院での治療終了後、ご自宅や施設で生活する高齢患者の「在宅生活を支える」という目的のために設立された。
「リハビリテーションが必要ない患者さんは存在しない」という考えに基づき、すべての病棟で積極的なリハビリテーションを行っているのが特色で、2019年には新たに「在宅医療部」を新設。リハビリを経て退院した患者が、住み慣れた家や地域で生活できるように、24時間365日体制で医療サービスを提供している。
今回は在宅医療部を運営していく上で当社をどのように活用いただいているか、地域の在宅医療機関との連携や院内連携を成功させる上で重要なポイントなどを部長の佐方氏に伺った。
在宅医療部 部長・医師 佐方信夫(サカタノブオ)
岡山県岡山市生まれ。2004年に神戸大学医学部を卒業。手稲渓仁会病院にて臨床研修を修了後、2006年に厚生労働省入省。医系技官として診療報酬改定などに携わる。2010年より松波総合病院総合内科に勤務。ハーバード公衆衛生大学院への留学、医療経済研究機構で研究に従事しつつ、世田谷の在宅診療所で臨床経験を積み、現在は2019年から世田谷記念病院の在宅医療部部長と筑波大学の准教授を兼任している。

左:当直連携基盤・中尾、右:世田谷記念病院・佐方部長
「人全体を診る」ことの難しさと醍醐味を、
在宅医療を通じて知った
当直連携基盤・代表取締役 中尾(以下、中尾):
佐方先生が在宅医療の道を志したきっかけについてお聞かせください。
世田谷記念病院 在宅医療部 佐方部長(以下、佐方):
私は元々社会の仕組みというものに興味があり、臨床研修修了後に厚生労働省の医系技官の道に進みました。
厚労省に行って医療政策全体のことを考えて、その後急性期の病院で総合内科医として一人立ちして、ようやく医療のことが少し理解できたように思っていました。でもまだ、その時は学生時代から教えられてきた「身体だけ診るのではなく、ひとを診る」ということは全然分かっていませんでした。
大学院生の時に在宅医療のクリニックで働いて初めて、「ひとを診る」というのは、暮らしている様子やご家族のこと、住んでいる場所のことなど、生活面を含めて幅広く考えないといけないんだということを実感し、その難しさと面白さを感じました。
中尾 :
そんな佐方先生が、世田谷記念病院の在宅医療部立ち上げに抜擢されたのはどういった経緯だったのでしょうか。
佐方 :
大学院進学後、研究者をメインでやっていた時期があり、その時は在宅医療の非常勤を週2日で続けていたのですが、自分自身の臨床の中途半端さを感じるようになりました。
患者さんに対する責任を完全には負っていないし、自分としては臨床をやっていると言えないな、という気持ちがあって、研究か臨床のどちらかに決めないといけないと感じるようになりました。臨床を捨てて研究だけやるというのは自分としては選べないと思っていた頃、平成医療福祉グループの幹部の方から「世田谷記念病院で在宅医療を推進していきたい」という話をいただきました。
平成医療福祉グループは、回復期から慢性期の病院や介護施設も数多く運営していて、合わせて8,000床以上をもつ大きな医療福祉法人です。
そのような法人から、在宅医療を推し進めたい、その立ち上げをやってほしいとお声をかけていただき、世田谷記念病院の在宅医療部長に着任しました。
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「ある程度の辛さを耐えなければ
在宅医療は提供できない」という慣習では、
在宅医療は広がらないのではと思っていた
中尾 :
当直連携基盤にお問い合わせをいただいた経緯についてお聞かせください。
佐方 :
お問い合わせをさせてもらったのは、たまたまインターネット検索で見つけたからでした。
当院の在宅医療部を立ち上げていた頃、私は病院に週3.5日行って、筑波大学の教員も週2日兼任していました。大学に行く週2日、代わりにオンコール対応ができる医師を探していたのですが見つからず、「どうしよう…」と頭を抱えていたタイミングで当直連携基盤を知りました。
ホームページを見て、「この会社の事業内容は、自分のニーズと完全にマッチしている!」と思い、試しに連絡してみたら中尾さんが当院に来て、丁寧にご説明いただけました。
当時、当院が台風で浸水した直後で(※1)、プレハブのような仮部屋でお話をさせていただきましたね…。懐かしいです。
(※1…2019年10月の台風による多摩川の氾濫で世田谷記念病院は浸水被害を受けた。)

中尾 :
お問い合わせをいただいたときは驚きました。当時、我々はサービスを立ち上げたばかりで認知度もなかったので、きっと怪しい会社だと思われたのではないでしょうか?我々の取り組んでいることを柔軟に受け入れてくださる病院さんが少ない中、ご英断いただきありがとうございます。
佐方 :
いえいえ、「こちらこそありがとうございます!」という気持ちでしたよ。
今回のインタビューの重要なところだと思いますが、実は在宅医療部を立ち上げることになった時に、多くの在宅をやっている先生からは「最初は気合いで24時間対応を頑張れ!」と言われたんです。患者さんの少ないうちはそれほどかかってこないんだから、医師が365日自分で受け持つしかないよ、とも。私も、そうだよな、と覚悟して立ち上げをやりました。
でも、「最初は絶対苦しい思いをしないと在宅の開業はできない」というのでは、在宅医療は普及していかないな、とも思いました。委託できるかどうかは別として、何らかのバックアップの仕組みがないと在宅医療を行う病院や診療所を増やすことは難しいのではないかと感じました。
人員の少ない医療機関では、“誰か辞めたらかなりきつい”という当直オンコール体制のところが多いと思いますが、当直連携基盤さんの当直サービスは「持続可能性」という点も完全に満たしていますので、社会的に重要な存在だと改めて感じます。
中尾 :
ありがとうございます。
佐方 :
日本の在宅医療は当直連携基盤さんのようなサービスがあれば、もっと普及すると私は思っています。
現状では365日オンコールを持つ覚悟がないと開業は難しいのに、その上「覚悟のないやつは辞めろ」なんて言っていたら在宅医療は広まりません。
また、悠翔会さんのインタビューで「患者さんが遠慮して電話しない」というお話がありましたが、これもよくあると思いました。患者さんが我々に気を遣い、我慢して電話をしないことはしばしば経験します。このようなことで、逆に状態が悪化してしまい、対応が後手に回ることもあり、改善しなくてはいけないと思っています。
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オンコールを任せることで、医師も看護師も
体力・気力が充実した状態で患者と向き合える
中尾 :
当社のサービスを導入されるにあたって、どんな懸念点や心配事があったかお聞かせください。
佐方 :
やはり「患者さんのことを知らない人が対応するのって本当に大丈夫かな?」という不安はありました。そのため、当初から時間外オンコールを当直連携基盤が受けてくれるという契約を結んでいましたが、1年くらいはずっと看護師さん2名と私が当番で電話を受けていました。
患者さんが50名程度になるまでオンコールを受け続けて、夜間や休日に出動が必要になった時に私が行けない場合だけ当直医を手配していただいていました。
ご家族の安心感などを考えると、基本的には我々が対応して、自分で行けないときだけ往診をお願いした方が良いだろうと思っていたからです。
中尾 :
そのお考えが変わったきっかけは何だったのでしょうか?
佐方 :
立ち上げ1年半後くらいに患者数が増えてきて、さらに一緒にオンコールの対応をしてくれていた看護師さんが産休に入り、私が全部電話を取らなければならない時期がありました。その頃に、何度かオンコールを取りそこねてしまって、代わりに当直連携基盤さんのコールセンターが対応してくれた…ということが何回かあったのです。
その時の対応に全く問題がなくて、「オンコールをお任せしても問題ないんじゃないか」と思えるようになったというところが、ターニングポイントでした。
それで、試しに土日だけ当直連携基盤さんに電話対応をお願いすることにしました。
中尾 :
土日をお任せいただいた結果、いかがでしたか?
佐方 :
全く問題なかったです。
たしかに、電話をかけて知っている声の医師や看護師が出たら、患者さんやご家族は安心されるかもしれませんが、それと引き換えに我々がしっかり休めない・寝られない状態になってしまいます。我々が夜はしっかり休んで当直連携基盤さんに診てもらう方が、結果的に患者さんにも良い医療が提供できるだろう、と思うようになりました。
中尾 :
現在は、どのようなバランスでオンコールや往診の当直対応をされているのでしょうか。
佐方 :
当直連携基盤さんにお任せしても医療サービスの品質が落ちないことを実感できたので、全面的にお願いしてもいいと感じています。お付き合いが始まって3年ほどになりますが、当直連携基盤さんに対応をお願いをしてトラブルが起こった事例は1例もありません。
ただし、複雑なケースや不安が強いご家族など、初対面のドクターが対応するのは難しいという場合には、患者さんやご家族に直接主治医につないでもらうように、当直連携基盤さんにお伝えしています。
当直対応を100%手放すつもりはありませんが、「手放しても大丈夫」というくらいの信頼と安心感はあります。
この考えに行き着くまでに3年ほどかかりましたが、やはり最初は全て任せるのは無責任ではないかという思いがありました。でも、質が保たれていれば何ら問題はないし、看護師さんもオンコールを受けなくなったことで負担が軽くなったと言っています。私も休日に電話をチラチラと気にせず子どもと遊べたり、家族と出かけられるようになったのは本当にありがたいです。
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診療アシスタントの質は、医療サービスの質に直結している
佐方 :
利用していて、コールセンターはもちろん、当直医に同行する診療アシスタントの質の高さを感じています。診療アシスタントの教育は一番大変だったのではないかと思うのですが、いかがですか?
中尾 :
おっしゃる通り、そこが一番の肝でした。
佐方 :
医師が1人で行って診察するというのは、実はよほど慣れていないと難しいと思います。若手の医師で当直を担ってくれる方はたくさんいらっしゃると思いますが、そういう先生方をサポートする人材の育成はとても難しいと思います。
それを当院が自前で養成するにはものすごい時間とコストがかかるため、専業でやってもらえるというのはありがたいとしか言いようがないですね。
本当に感謝してもしきれません。
中尾 :
ちょうど今日も全社ミーティングで話したのですが、「うちの会社の要は在宅医療におけるつながりを担保するということ。医師をサポートする君たちの頑張りが一番必要なんだよ」という話をしてきたところです。
佐方 :
本当にそうですね。うちの場合は看護師さんと医師で行きますが、同行している人のフォローがないと医師は診療に集中するのが難しいと思います。
他のクリニックでは、診療アシスタントや常勤医も当直の当番をやっていることがあります。そうすると、患者さんの安心度は増すかもしれませんが、やはり負担が大きくて大変だなと思います。疲れると医療の質も低下してしまうので、切り分けてお願いできるというのは本当に助かります。

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地域の在宅診療所は「ライバル」ではなく「パートナー」
中尾 :
佐方先生は在宅診療クリニックと病院の両方で在宅医療を経験されていますが、求められる役割の違いや、果たさなければならない役割の違いはどこだとお考えですか?
佐方 :
そもそも、世田谷区には在宅診療所が非常にたくさんありますので、在宅医療部の立ち上げをする時に、わざわざ既存の診療所と患者さんを奪い合うことをしないようにと思っていました。
グループからは「回復期・慢性期病院の特徴を生かした在宅医療をやってほしい」と言われていました。当院は回復期リハ病院で、多くの人たちの状態を良くして帰すという強いミッションがありますが、リハビリ病院の多くは患者さんが退院した後のことは全くわかりません。このため院内でも「自分たちで退院後も診たい」という意見があり、退院支援と退院後のフォローを中心とした在宅医療に特化していくと良いのではないかと思いました。
中尾 :
在宅医療=看取りというイメージがある中で、新しい形と言えますね。
佐方 :
リハビリですごく良くなって、その後退院が決まったのに、患者さん達の中には不安があって「帰りたくない」と思う方が一定数います。そういう人たちに対して、「退院してからも、うちの病院から先生が診に行きますから大丈夫ですよ」とか「退院後もうちで十分サポートしますから、安心して退院できますよ」と言って安心感を与えることで、早期退院に結びつけるというのが、当院の在宅医療部の役割のひとつです。
また、当院にはリハビリのセラピストが100人いるのですが、訪問リハビリや管理栄養士などの人材が退院後に集中的に介入できるのも病院ならではの特徴です。
再入院しないで自宅療養に落ち着かせるという部分で、当院は地域の方々のお役に立てるのではないかなと思っています。
そのため、当院では積極的に看取りを受けるというよりは、自院の退院患者の自宅療養を支えたいと考えています。
また、中には退院後にさらに状態がよくなって、外来に移れる人もいます。「ちょっと頑張れば外来に行ける」という人の最後のひと押しをするというのも、回復期リハ病院の行う在宅医療の在り方だと思っています。
中尾 :
コロナ禍以降、「在宅入院」という言葉を度々耳にします。入院前支援と退院後支援に、貴院は先んじて取り組まれてきたのですね。
佐方 :
他でも多数実践されていると思いますが、「時々入院、ほぼ在宅」を実現しようとしています。当院には地域包括ケア病棟もあるので、ちょっと具合が悪い時は入院できるし、またよくなったら戻れば良い。病床を持っている病院だからこそできる対応だと思います。
在宅医療で看取りをメインに診療することに比べて、本流じゃないと思われるかもしれませんが、いろんな形があって良いのではと思っています。病院の行う在宅医療の新しい形を私たちは目指しています。
また、当院では2つの超有名な在支診と機能強化型の連携をしています。入院の受け入れはもちろん、看取りの患者さんは経験豊富なこれらのクリニックにお願いしたり、訪問リハビリを一緒に入った方が良い患者さんは当院が診たり、といった形で協力し合っています。また、月1回集まって、それぞれの患者さんがどうなっているか情報共有したり、難しい事例にどのような対応をされているかを教えていただいたりもしています。
大規模で実績のある診療所に支えていただきながら、地域の在宅医療が幅広い形でひとつになってきているのを感じます。

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病棟や地域連携室を巻き込んで、病院一丸で地域医療に挑む
中尾 :
現在の貴院のご状況についてお聞かせください。
佐方 :
現在は患者数が80人ほどいます。決して大きくはないですが、当直連携基盤さんのサポートも相まって安定した在宅医療を提供できていますし、先ほどお話ししたように、非常に良い形で地域の診療所と連携することができています。
さらに、現在は病棟の先生方も兼任で訪問診療を手伝って下さっています。
病棟の先生方にも在宅医療を知ってもらえますし、「自分の診た患者さんを退院後も診たい」という思いを持つ先生もいらっしゃり、良いサイクルが生まれています。
当院の場合はリハビリの専門医もいるので、訪問診療でリハビリについて評価してもらうこともあります。病院で一丸となって在宅医療に取り組んでいます。
病院の在宅医療部門でよくあるのが、「在宅医療部門だけが浮いてしまって、独立した診療所のようになってしまう」という課題です。当院の場合は、院長自ら率先して10人以上の患者さんを診てくれていますし、病院全体を巻き込んで患者さんと向き合えているのではないかなと思います。
中尾 :
地域連携だけでなく、病院内連携に関しても素晴らしい成功事例ですね。どんな取り組みをしたら、ここまでうまく連携ができるのでしょうか?
佐方 :
院内については、「コミュニケーション」が最も重要だと思います。院内の先生方に、「訪問診療を少し手伝っていただけませんか?」と声をかけて、協力してもらえる先生方を増やしていきました。
また、地域連携室との関わりも在宅医療にとっては非常に重要です。地域連携室の師長さんとコミュニケーションを取り、地道に話し合いを重ねながら、自院の患者さんを在宅医療部に紹介してもらえる関係性を築きました。
また、在宅医療部発足時に看護師さんを2人つけていただいたのですが、彼女たちは元々病棟で働いていたため、病棟との仲介役を担ってくれたのも大きかったです。入ってきて日の浅い私1人では、院内連携にもっと時間がかかっていたと思うので、非常に助かりました。
中尾 :
病院全体でチーム医療を実現されているのですね。ぜひ、成功事例として多くの病院にもご覧いただきたいです。
本日はありがとうございました。
