医療法人社団やまと やまと診療所日吉 「初めて来た先生も、自分をよく理解してくれている」この安心感が、在宅医療の肝
【医療機関名】医療法人社団やまと やまと診療所日吉
【所在地】〒223-0051 神奈川県横浜市港北区箕輪町2-17-19
【代表者】院長 阿部佳子
【ホームページ】https://hiyoshi.yamatoclinic.org/blog/page/4/
やまと診療所は、宮城県登米市、宮城県大崎市、宮城県栗原市、宮城県仙台市、宮城県名取市、岩手県一関市、神奈川県川崎市、神奈川県横浜市、の8診療所を拠点として、主に在宅診療を行う医療法人。
持続可能な地域医療を目指すやまと診療所は、地域の人たちとともに健康や在宅療養に関するミーティングや勉強会を開くなど、地域全体でケアスキル向上を目指す「OPEN MEDICAL COMMUNITY(オープンメディカルコミュニティ)」といった取り組みにも積極的な医療機関だ。
在宅医療を行うにあたって診療アシスタントを重要視している点においても、当直連携基盤とは近い考え方を持っている。
そんな中、今回インタビューしたのは神奈川県横浜市にある「やまと診療所日吉」の阿部院長と久嶋事務長。
在宅医療における診療アシスタントのあり方や地域との関わり方、当社のサービスを利用し続ける理由を掘り下げていく。
やまと診療所 院長 阿部佳子(アベケイコ)
1987年星薬科大学卒業、1997年山形大学卒業。王子生協病院(東京都北区)で初期研修後、家庭医療の第一人者藤沼康樹医師に師事する。2006年から生協浮間診療所長、東京家庭医療学開発センタ(CFMD東京)指導医。2016年地元横浜に戻り日吉慶友クリニックにて在宅診療部長、2020年やまと診療所日吉院長となり、家庭医志向のクリニックを運営。訪問診療の他、プライマリケア看護師研修アドバイザー、子育て支援のNPO「びーのびーの」理事、高齢者のための「えがお祭り」の実行委員等、積極的に地域にかかわる活動をしている。誰もが安心して楽しく暮らせる「家庭医のいる町づくり」がライフワーク。
事務長 久嶋静磨(キュウシマシズマ)
平成1999年3月宮崎県立日南高等学校卒業。同年4月東京消防庁入庁。在職中は、救急隊員として勤務し2018年3月退職。平成30年6月日吉慶友クリニックに診療アシスタントとして入職。令和4年4月やまと診療所日吉の事務長となり勤務。診療アシスタントとしても継続して診療同行し現場感を活かしたクリニック運営に努めている。また、法人内の診療アシスタント教育についてもプロジェクトリーダーとして従事。今後の診療アシスタントの育成に対しては、クリニック内の業務のみならず「地域全体のハブ的な役割を担う診療アシスタントの育成」を目指し、地域全体に対しても貢献していける育成を目指している。

左:やまと診療所・阿部佳子院長、中:やまと診療所・久嶋静磨事務長、右:当直連携基盤・中尾
診療アシスタントの存在が、
医師を医療に専念させてくれる
当直連携基盤・代表取締役 中尾(以下、中尾) :
やまと診療所日吉さんは診療アシスタントを重要視されていて、実際に所属している診療アシスタントさんのお仕事のクオリティも非常に高いとお見受けしています。貴院が診療アシスタントを積極的に活用されるようになっていった過程をお聞かせいただけますか?
やまと診療所日吉 阿部院長(以下、阿部):
以前に私のいたところでは診療アシスタントという職種がありませんでした。なので、やまと診療所に入って診療アシスタントをつけると言われて、私自身も初めはどんなことを頼めばいいかわからなかったんです。
それでもいざ診療アシスタントと一緒に働いていってみると、看護師さんとはまた違った事務的な業務や連携のサポートをしてくれて、どういうお願いをすれば良いのかという感覚を少しずつ積み重ねていくことができました。
アシスタントさんがいることでサポートを全て担ってくれるので、私自身も、仮にこの地域のことを知らない医師が来たとしても、医療業務に専念できます。
今では欠かせない存在だと感じていますね。
中尾 :
具体的に、診療アシスタントさんがいて良かったと思うのはどういうときですか?
阿部:
常にお世話になっているので難しいですが、特に挙げるとすれば患者さんを知れるところですかね。
往診などで普段と違う患者さんのところに行くと、家族構成や患者さんの特徴など基本的なことはカルテでチェックできるんですが、細かい部分はどうしても実際に接しながら掴んでいくしかないんです。
そこで診療アシスタントがいると、患者さんの微妙な癖だったり、ご家族の性格や普段の過ごし方など、ちょっとしたことを把握して教えてくれるのでとても助かっています。
中尾 :
在宅医療では「患者さんとの今までのつながり」がとても大切になると思いますが、臨時往診の際などにそこをつないでくれる役割ということですね。
阿部:
そうですね。私たち医師は医療をして、診療アシスタントさんは色々な準備や連携をしながら、患者さんとそのご家族のことを伝えてくれる、という役割分担ですね。
—
在宅医療のポイントは、どんな時も
患者さん・ご家族との「つながり」を保つこと
中尾:
もともと、やまと診療所日吉さんは当直帯を自院で対応されていたということですが、当直連携基盤にご依頼しようと思われたきっかけは何だったんですか?
阿部:
最初、患者さんが少ないときは事務仕事や電話番も含めて、すべて一人でやっていたんです。少しずつ患者さんが増えてきて、まずは夜だけ非常勤の先生にお願いすることにしました。
ただ、患者さんやご家族のことをあまり知らない先生だと、医療方針や考え方の違いによって患者さんのご自宅へ行くべき場面なのかどうかで議論する必要があるなど、連携面での課題が生じていました。
さらに新型コロナウイルスが流行して、なかなかこちらの仕事をお願いできない状況になったんです。
ちょうどそんなときに当直連携基盤さんのお話を聞いて、これはありがたい、ぜひお願いしようということになりました。
中尾:
外部組織である私どもに当直帯をお任せいただくにあたって、はじめは不安や懸念もあったのではないかと思いますが、特に気にされたのはどういうところでしたか?
阿部:
最も不安に思ったのは、患者さんやご家族への影響です。私たちがやっているのとまったく違う治療方針の先生が来て、ご家族に「このやり方は違うんじゃないか」ということを言ってしまうと、ご家族が動揺されてしまったり、次の診療もやりづらくなったりしますよね。
あるいは、私たちは在宅看取りの方針なのに「これは病院で」ということになったらどうしようとか、そういうことを考えました。

中尾:
普段から築き上げてきたつながりが分断されてしまうのでは、という不安ですね。実際にご依頼いただいた後、その懸念はどのくらい解消されましたか?
阿部:
当院の場合は、診療アシスタントが診療の方針や意図を伝えるんですが、それを丁寧に受け止めていただいていて、ニュアンスまで汲んで診てくださるので、分断の不安はかなり解消されています。
中尾:
当社のサービスを取り入れるにあたっての懸念と現状について、久嶋事務長はいかがですか?
やまと診療所日吉 久嶋事務長(以下、久嶋):
阿部院長のお話ししたことがまさにその通りだと思います。
私は、在宅医療を受ける患者さんにとって一番重要なのは、緊急対応だと考えているんです。在宅医療の最大のメリットは、日常的に医師が来るのもそうですが、「何かあったときに助けてくれる」ということにあると。
だから、緊急時に普段のことがわからない医師が行って、その患者さんのニーズに合う診療ができるかどうかという点は、在宅医療をするうえで常々気をつけないといけないことだと思っているんです。
緊急時に普段と違う医師が対応に向かっても、診療アシスタントが「この患者さんは特に接遇に気を配って」とか「ご家族は特にこういう部分を気にされる」ということを医師に伝えて、医師もそういうポイントを意識してくれれば、患者さん側からは「このクリニックは丁寧に全部を見てくれている」という信頼にもつながりますよね。
それが、今は当直連携基盤さんと良い形でできているので、今後もお願いしたいと思っています。
中尾:
ありがとうございます。
「連携やつながりの担保」というのが、ひとつのキーワードになっているんですね。そのあたりは社内でもよく話しているポイントなので、当社の方向性もこれでいいんだという確信になりました。
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どんな医師が来ても診療が回るようにするのが、
診療アシスタントの役目
中尾:
弊社としても診療アシスタントの起用と教育には力を入れているのですが、診療アシスタントに望むことや、普段から診療アシスタントの方に伝えていることを教えていただけますか?
阿部:
私が診療アシスタントに期待しているのは、患者さんの家族がおっしゃった必要なことをカルテに記録してくれたりとか、そういう信頼につながりうることです。
アシスタントを始めて間もないうちは、重要なポイントがわからないので全部メモするんですね。でも、要領が掴めてくると「これはカルテの所見に関係する」といったことがだんだんわかるようになってくる。そういうふうに、的確に記録できるようになってほしいなと思っています。
それから、患者さんについてよく知ってほしい、ということですね。当院のアシスタントは、初めてお会いする患者さんについて、アシスタント自身が感じた患者さんや家族の特徴などについてもメモしておいてくれるので助かっています。
中尾 :
アシスタントさんの主観的な、あるいは情緒的な内容も入れてくれているんですね。
阿部 :
そうですね。患者さんやご家族の性格や環境などは、どんなふうに指示を提案するかにも関わるので、すごく大事なんです。それから、当院はカルテも書いてもらったり、薬の管理もしてもらうようにしています。
これができるようになると、診療のことがわかるし、例えば「前に出していたこの薬がないですけど、大丈夫ですか?」ということを聞いてくれたりもするようになるんですよ。
あとは、やはり煩雑な事務手続きとか、連絡とか、物品の管理とかをすべてやってくれるので、とにかく医師は医療に集中できる環境が整いますね。そういう意味で、「『医師』という肩書きの人が来たときに、それがどんな医師であっても診療が回るように育ってね」と伝えています。
中尾:
私たちも多くの先生に入っていただいている分、仕事の質を安定させるには診療アシスタントのクオリティやキャパシティを上げていくしかないという部分があるので、とても共感できます。
阿部:
医院の経営面を考えても、医師は医師にしかできないことだけをやれるようにして、他のことは他の職種で回す方が利益もプラスになりますよね。
中尾:
世の中もタスクシェアの風潮で、いかに医師の仕事を減らしていくかという流れがあるので、診療アシスタントの活用は時代にも非常にマッチしていますね。
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診療アシスタントが磨くのは「スキル」と「スタンス」
ひとり立ち後も、学び続けて「一人前」を目指す
中尾:
診療アシスタントさんの教育について、久嶋さんにもお伺いできますか?
久嶋:
私自身が教育をする上で考えていることですが、診療アシスタントとして必要なものは、大きく「スキル」と「スタンス」に分かれるんです。
それぞれ、スキルとは何か、スタンスとは何か、どんなふうに教育していくのかについて色々な人と相談しながら、ラダー形式のカリキュラムを作成しました。これを、現実的に運用できるかどうかを詰めて、現場に落とし込んで、反響を精査していく予定です。
中尾 :
スキルとスタンスについて、詳しく教えてください。
久嶋:
まず、スキルはカルテの書き方や医事文書、薬、疾患についての知識などです。在宅医療の中でよく出てくる疾患はどういうもので、どういう特徴があるのかとか、ある疾患や診療方法、薬などの結びつきがわかるテキストがあります。
それからスタンスについては、各々がどういうテンションで仕事をしているのか、どういうところに気づきを得たか、といった点について、実際にディスカッションして皆さんで共有しながら養っていく、という考え方でやっています。
中尾:
新しく入られた診療アシスタントさんが、一人前になるにはどのくらいの期間をかける想定ですか?
久島:
診療アシスタントの業務は常に追い求めるもので、本当の意味での「一人前」になるには膨大な量の知識や経験も必要なので、私自身は「一人前」と言わず「ひとり立ち」、つまり一人で回れるようになるのをひとつの区切りと考えています。
その意味での「ひとり立ち」に向けて、単純に今回作ったカリキュラムのスキル面だけを追っていくなら、3ヶ月。ただし、その中身には向き不向きもあるので、その人それぞれの特徴を捉えながら教育していきます。
そして、スタンス面も含めて「ひとり立ち」できるようになるまでの期間の目安は半年ほどだと考えています。
中尾:
そのカリキュラムを、診療アシスタントの資格みたいにできるといいですよね。
診療アシスタントは医師や看護師と違って国家資格化されていない分、つい本人も「自分には専門性がないんじゃないか」と思ってしまいがちなので。

阿部:
資格などがあると、確かに本人たちにとっても安心感が生まれそうですね。これからまだ高齢者が増えて、病床数が増える見込みは少ないとなると、在宅医療も増えてくる。そうすると、診療アシスタントの需要は増えてくると思いますし。
中尾:
診療アシスタントは医療業界以外からも入りやすいので、色々な業界から来た人が経験しやすいのも良いところですよね。
阿部:
色々なところから来た人が、各々のカラーを発揮できるのも良いと思います。
中尾:
そして、診療アシスタントの間口が広がることで在宅医療のことを知る人が増えれば、高齢化が進む社会の中で分断も起きづらくなるし、果たせる役割も大きいように感じます。
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診療アシスタントがハブになり、
自ら変われる地域づくりを
久嶋:
診療アシスタントが果たせる役割について言えば、診療に特化したことはもちろんですが、「地域を変える」ということにつなげられるというのが私の考えです。
診療アシスタントは医師や看護師以上に患者さんやご家族、それから地域の方々に近い存在。なので、いかにして医療機関と地域を結ぶハブになれるか、というところまで考えられるのが当院の診療アシスタントの醍醐味だと思っています。
中尾:
それは、やまと診療所さん全体で取り組まれている、地域と医療をつなぐ「OPEN MEDICAL COMMUNITY」にも通じるところなんでしょうか。
阿部:
そうですね。日吉ではコロナ禍の影響でこの数年「OPEN MEDICAL COMMUNITY」を実施できていなかったんですが、やっとこれからまた再開しようというところなんです。
なので、診療アシスタントならそこで講師をやっても良いし、地域の皆さんからのリクエストを集めて何かを企画しても良い。
そのように色々な地域の機関と連携をとりながら、診療アシスタントとしても地域としてもレベルアップしていけるようにしたいですね。
久嶋:
先ほどお話しした教育プログラムを作ったのは、「診療アシスタントの皆さんがやっているのは、診療所のことじゃなくて地域のことなんだよ」ということをわかってもらうためでもあるんです。
スキルがきちんと定着して自然にできるようになり余裕ができてくると、地域に目が向きますよね。
ただ診療のことだけじゃなくて、その先にある「地域を活性化させる」っていうところに、診療アシスタントの重要な役割があると思っているんです。
中尾:
「アシスタント」という枠にとどまらず、地域のハブの主役になるということですね。そういう意味でも、「地域を変える」を掲げているやまと診療所さんにおいて、やはり診療アシスタントさんの存在の大きさがうかがえます。
阿部:
そこまでやれる存在だと思っています。
「地域を変える」と言うともしかすると私たち自身が何かをやるように聞こえるかもしれませんが、より良い街になるように、街全体がより良く変わろうとしていくお手伝いをしたい、と考えています。
中尾:
地域の方々が受け身じゃなくて、主体になる、というのは理想的ですよね。
阿部:
私たちは、もっとこうした方が良いということに気づいてもらえるような仕掛けをして、地域の皆さんが自分から何かを変えていこう、こうなりたいね、と言ってくれるような街になったら素敵だなと思っています。
年齢を重ねたり、体がだんだん弱くなってきたりしても、この街にいると楽しいし、安心。そういう街を目指していきたいですね。
中尾:
日吉は私自身も愛着のある街なので、楽しみにしています。
本日はありがとうございました。